皆さん ゴッホは絵をただ「感覚だけで」絵を描いていたと思いますか?
実は、、、、、そうでありません、彼は科学的にも色を研究して頭で考えて色彩を配置していたんです。彼の参考にした色彩理論はフランスの科学者シュヴルール(1786-1889)の「色彩の同時対比の法則(1839)」や「シャルル・ヴランの「デッサン芸術の文法」(1867)というものからです。上のシュブルールおじさんは当時タペストリー工場の社長さんで染色とか織物の研究をしてたんですね。で、、、色のセンスが悪いとクレームを受けまくったので、ガチで色の研究をし始めたそうです。今日は彼のこの色彩理論と当時の印象派の画家たちとの関係をみていきたいと思います。
印象派・点描主義に影響を及ぼしたシュヴルールの色彩理論
彼の色彩論は主に色彩を「類似」と「対比」の2つにフォーカスを当てて考察しています。
これはどんな内容かというとですね。簡単にいうと隣り合う紅ショウガと牛肉は引き立て合うという法則です。スタンド使いがスタンド使いに影響を及ぼすのと同じです。
つまり、「隣り合う色は干渉しあって影響を及ぼし合います」という法則について明確化しました。
彼は色彩の対比を「類似色の調和」と「対比の調和」という2パターンに分けました。では具体的に研究していきましょう。
●類似色の調和
パターン① 「同じ色相」なら明度や彩度がある程度違う場合でも調和する
赤と濃い赤、青と薄い青、これらは明度や彩度が違っても同じ色相です。それは隣に置いても調和しますということです。(注:個人的には明度や彩度が少し違う場合をいっているのであって、中間程度違う場合はそこまで調和しないという意味だと私は推測します)
注:次のカラーチャートは私が作ってみたものです。↓
パターン② 「少し近い色相」の色同士は調和する
緑とエメラルドグリーン、赤とマゼンタとかです。
右の丸いチャートは12色環(Color order system)といいます。隣り合う色相の参考にしてください。
パターン⓷ ある色のガラスを通してみると後ろの色達はとりあえず調和する
ステンドグラスのように何かの色のガラスを挟んで、背景の色を見るとそれらは調和するとも主張しました。
●対比の調和
パターン① 「同じ色相」で2つの色の彩度や明度がかなり違う場合それは調和する
下の図は、左/彩度や明度が少し違う 中間/彩度や明度が中間程度違う 右/彩度や明度がかなり違う
一番右の大きな対比がアクセントがあって綺麗に見えます。真ん中の中間程度違う場合なんとなく曖昧に見えます。インテリアや壁紙だったら一番右がカッコよさげですね。
パターン②「隣接した少し違う色相」でも明度や彩度が大きく違う場合に調和する場合がある
こちらは「隣接した色相の色」を2つ置いて、さらに両者の彩度や明度を大きく変えた表です。
↓の図は上の表の色の対比を「更に強く」して見ました。
パターン⓷「色相の離れた色(補色など)」は、明度や彩度が違う場合、調和する
↑の表は赤に対する補色=緑、そこから60°圏内に存在する黄緑、水色を並べたものです。
明度や彩度は強く対比を付けていません。
↑の表は赤に対する補色=緑、そこから60°圏内に存在する黄緑、水色を並べたものです。
ですが、明度や彩度を強く変えました。
どちらが綺麗に見えるでしょうか?私は下の表のが断然綺麗にみえます。どうやら補色でも明度や彩度を一気に変えた方が綺麗に見えるようです。
また疑問なのはシュヴルールの理論において白や黒はどういう色相として見てるんでしょうか?
●シュヴルール錯覚
白と黒のコントラストが強い面の境界線の線は強く見える
面白いのが、これはよくデッサンをしていると見受けられる現象です。これを最初に理論化したのがシュヴルールなんですね。 明るい背景に暗い丸を描いたり、暗い背景に明るい丸を描くと中の丸の明暗が変わって見えるのと同じです。
ところでこのように理論だけみていても、実用性がありません。次に実際の印象派がどのように色を配置していたのか見て行きたいと思います。
印象派の色彩対比(実践)
ではシュブルールや色彩学者のいう色彩の対比が画家の作品にどのように表れているのでしょうか?
シュブルールは絵を描くうえで「光や照明を忠実に再現」することを勧めましたが、
色彩を実際より誇張した方が鑑賞者は心地よいと感じるとも言いました。スーラやゴッホはこのアドバイスを利用して、補色対比を絵に取り入れました。つまり、明度の同じ補色の色を隣り合わせに置いたんですね。
上の図を見ると少し見ずらいですが、画家がさりげなく補色を使っていることが分かると思います。
そしてこの点描主義の考え方は、後のフォービスや未来主義に影響を与えました。このように色彩の対比はいい意味で干渉し合います。これは量子力学でいう波の干渉に似ています。
ところで、よく小学校の頃に美術の先生が太陽は赤で塗るとか塗らないとか、草は緑で塗れとか、海は青でぬれとか言いう話を聞きましたよね、、、。あれは全く幼稚な考え方です。何故なら綺麗な色とはそれ単体では現れづ、相互関係で現れてくるからです。ただ綺麗なエメラルドグリーンが好きだといって、それをつかえば絵が良くなるわけではありません。その1つの色が綺麗だとか汚いとかいう絶対的な性質は色にはないということです。これは「形」にもいえます。
印象派の光の加法混色と筆触分割
結論からいうと印象派の「光の印象」っていうのは、「光の加法混色の印象」を意味しています。加法混色とは光の色(黄色・緑・青・マゼンタなど)を混ぜると白になるという理論です。白い光をプリズムを通してみると七色に分解されますよね。このように光がいくつかの色相に分解されるっていうのは、1666年にアイザックニュートンが「光のスペクトル」を発見したのが始まりです。その後、1704年に彼の著者「光学」で色を7色に分類し定義しました。
光を混色された色として描くのではなくて、プリズムを通して分解された光の色としてキャンバスに置き、 遠くから見た時に色が混ざって見えるように描いたのが印象派です。それ以前の画家達は、筆のタッチとか、筆の跡が残らないように描くことがリアリズムだったんです。 ですが印象派からは色をこの理論にのっとって分けないといけないので、タッチをわざと残したんです。これを筆触分割(divided brushstroke)=(筆跡を残す&色を分割する)といいます。これを最初になんとなーく実践したのがドラクロワ(ロマン主義)やベラスケス、ターナー(イギリス)やコンスタブルです。そして次にガチで始めたのが印象派のカミーユ・ピサロです。
ドラクロワは「キオス島の虐殺」の背景の人物の細部描写で実践
筆跡を残してディテールを描かなくても顔に見えるように見せる。その前の時代は筆跡を残さず、細部まで細かく描いていた
ターナーの筆触分割
コンスタブルの筆触分割
●印象派の筆触分割
では次に印象派の筆触分割のタッチをみて行きます。彼らのタッチをみるといかに前の時代のタッチと絵画の考え方とは違ったかがうかがえます。これらもプリズムによる光の分解と加法混色の科学的解明の裏付けがあったことが大きいです。
カミーユ・ピサロの筆触分割
ゴッホの筆触分割
スーラの筆触分割
絵の具を拭いた布
こちらはコロンビアの売店で買った布ですが
、私がこれで絵の具を拭いています。
加法混色が起こっています。
芸術の発展は科学の発展と影響しあっている
●インパスト技法(Impasto)と科学技術の発展
インパスト技法とは印象派から特に使いだした、パレットナイフで絵の具を厚く乗っける技法のことです。実はこの技法は筆触分割の考え方と通じています。なぜなら色をナイフで単体で置くことが出来るからです。そしてこれは当時の科学技術と連結しています。その前の時代では画家が手で湖ねて絵の具を作っていたので、柔らかく、流動性がありました。しかし18世紀の後半ぐらいから絵の具メーカーが現在のような粘り気のある、固形的な絵具を製造し始めたので、インパスト技法が可能になったのです。
私はそんなありふれた動作にまさか名称がついてるとは思わなくて、、、、どっか絵画の本でこの名前を紹介していた時にホントにダサイと思ってしまいました(笑)とにかく、、、、、
以前は筆後さえも残さないのが普通でしたから、これは歴史的なのです。昔は気にも留めなかったのですから。
●19世紀になって鮮やかな化学合成顔料の研究が進む
以前は無かった、コバルトブルー/ビリジャン/ウルトラマリン/カドミウムイエロー/セルリアンブルーなどが発売されて、印象派が野外で使用していました。
今後、新しい芸術・美術の発展には新しい科学技術の登場が必要であることは間違いないでしょう。
画家の色彩論と作品の関係
ある画家の作品というのはその画家の色彩論と色彩哲学が表現されています。
美術史を見ると、異なる色をどのように調和させていくのかってことが古代ギリシャから考えられていました。 要は「対立」ではなく「調和」というのが思想的には焦点だったわけです。
レオナルド・ダ・ヴィンチもその絵画論の中で色彩について解いています。彼は白と黄色と緑と青と赤と黒を6つの色として定めています。そして白と黒/ 赤と緑/ 黄色と青は互いに引き立て合うと考えたんです。
韓国の伝統的なお寺に丹青(단청・タンチョン)というのがあるんですけれど、そこにも韓国の色彩に対する哲学が表現されているわけですね。→丹青に対する色彩哲学はこちらのページから。
色というのは視覚的(科学的・物資的な刺激)だけではなくて心理的な刺激を与えるものです。色彩が心理に影響を与えるということは、物質が精神的な快楽や感情に結びついていて干渉し合っている証拠です
その他の色彩理論
ソクラテス/プラトン/アリストテレスの色彩論(紀元前470年-322年頃)
アイザック・ニュートン「光学」(1642ー1727)
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(ドイツ)「色彩論」1810年
オグデン・ルード「近代色彩論」1879年/現代色彩学/色彩調和論
ジョージ・フィールド(イギリス)「色彩学」1841年
アルバート・マンセル(アメリカ画家・色彩研究者)(1858ー1918)
ヴェルヘイム・オストワルド(ドイツ)「色彩学」1917年
ヨハネス・イッテンの色彩論 1961年
ドナルド・ジャット 画家 ジャットの四原理/色彩調和論 (1928ー1994)
ディーン・B・ジャット(アメリカ人・心理学者)(1910ー2004)
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